かぐや姫の成長 の現代語訳(口語訳)
この児ちご、養ふほどに、すくすくと大きになりまさる。
この幼子は、養育するうちに、すくすくと大きく成長する。
三月みつきばかりになるほどに、よきほどなる人になりぬれば、髪上げなどとかくして、髪上げさせ、裳も着きす。
三か月ほどになる頃に、一人前の背丈の人になってしまったので、髪上げ(の成人の儀式)などあれやこれやとして、髪を結い上げさせ、裳を着せる。
帳の内よりも出いださず、いつき養ふ。
(翁はこの子を)帳台の中からも出さないで、大切に養育する。
この児のかたちのけうらなること世になく、屋やの内は暗き所なく光満ちたり。
この子の顔立ちの清らかで美しいことはこの世に比べるものがなく、家の中は暗い所もなく光り輝いている。
翁おきな心地悪あしく、苦しき時も、この子を見れば、苦しきこともやみぬ。
翁は気分が悪く、苦しい時も、この子を見ると、苦しいこともおさまった。
腹立たしきことも慰みけり。
腹立たしいことも気が紛れた。
翁、竹を取ること久しくなりぬ。
翁は、(黄金の入った)竹を取ることが長く続いた。
勢ひ猛の者になりにけり。
(それで、翁は)勢力ある者になった。
この子いと大きになりぬれば、名を、御室戸斎部みむろといんべの秋田を呼びてつけさす。
この子がたいそう大きくなったので、名前を、御室戸斎部の秋田を呼んでつけさせる。
秋田、なよ竹のかぐや姫とつけつ。
秋田は、なよ竹のかぐや姫と名づけた。
このほど三日みかうちあげ遊ぶ。
この(名づけ祝いの)間三日にわたり宴会を催し歌い舞って楽しむ。
よろづの遊びをぞしける。
あらゆる歌舞音楽をした。
男はうけきらはず呼び集へて、いとかしこく遊ぶ。
男は受け入れるのに分け隔てをせず呼び集めて、たいそう盛大に管弦の遊びをする。
世界のをのこ、貴あてなるもいやしきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがなと、音に聞き、めでて惑ふ。
世の中の男たちは、身分の高い者も低い者も、なんとかしてこのかぐや姫を妻にしたいものだなあ、結婚したいものだなあと、うわさに聞き、恋い慕って心を乱す。
脚注
- 髪上げ 大人の髪型に結い上げる、女子の成人の儀式。
- 裳 成人した女性が正装の際に袴はかまの上に着用し、腰下にまとった衣服。
- 帳 帳台。高貴な人の座として、四方を垂れ絹で仕切り、一段高くした台。
- 勢ひ猛の者 勢力ある者。
- 御室戸斎部の秋田 「御室戸」は地名。「斎部」は祭祀さいしをつかさどる氏族。「秋田」は名。
出典
竹取物語
参考
「国語総合(古典編)」三省堂
「教科書ガイド国語総合(古典編)三省堂版」文研出版